仕事

「人の心を動かす」方法、間違ってませんか?その極意とは

この記事で解決できるお悩み

部下が言うことを聞かない...

家庭でも職場でも話が空中戦になる...

「部下が成長せず負担が大きいまま...」「妻との話し合いはいつも結論が出ない」など、
どうすれば自分の言うことを聞いてくれるのかという「人の心を動かす方法」について悩んでいませんか?

実は、この記事で紹介する方法を実践すると、誰でも人に影響力を持つことができるようになります。

なぜなら、これは科学的な根拠に基づいた内容だからです。
振り返ってみると、「あの時はこうだから動いてくれたのか」とメカニズムに気づくことができます!

この記事では、「人の意見ってどうやって変えるの?」「できるだけ自分の主張を通したい!」、
そんな方に向けて、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの教授であるターリ・シャーロットの著書、『事実はなぜ人の意見を変えられないのか 説得力と影響力の科学』という書籍をご紹介します。

記事を読み終え実践もすると、あなたの毎日が変わりますよ!

とりあえず買ってみる

「人を動かす」に対する偉人たちの考え

「部下に指導を何度しても全然変わらない...」
「夫と話し合ってもいつも結論が持ち越し..」

こう思ったこと、ございませんか?

人間誰しも、影響を与え/与えられ、生きています。

子どもには「物事を教え」、
パートナーと将来について「話し/話され」、
職場では「部下に教え/上長に教えてもらい」といった具合に。

しかし、この「人に影響力を与える」「人を動かす」といった分野は、時代を超えた普遍の悩みのはず。
とうの昔に答えが出ているのではないでしょうか?

このパートでは、過去の偉人たちの考えを簡単に紹介します。

それでは、早速みていきましょう!

アリストテレス

まず、アリストテレスです。
古代ギリシアの哲学者で、プラトンの弟子。ソクラテス・プラトンとともに西洋最大の哲学者の一人です。

彼の著書、『弁論術』の中で述べている「人を説得する三要素」は次の通りです。

  • エトス(話し手の人柄)
  • パトス(聞き手の感情)
  • ロゴス(言論の論理)

エトスとは、論理そのもの以上に発言している人間がどんな人物なのか、その人柄が重要ということです。
「あの人が言うとすんなりコトが進むけど、それ自分が1週間前に言ったやつだよな...」
そう思ったことないですか?(笑)
私は2,000回くらいあります。
日頃から信頼関係を構築しましょうということですね...

パトスとは、聞き手のその時の感情です。
相手が忙しそうにしてる時に話しかけるより、少し余裕そうな時に声をかけた方が、話をきちんと聞いてもらえてコトが進んだりしますよね。
相手が今どういう状態なのか、を考慮したコミュニケーション設計が大事なのです。

ロゴスとは、論理です。
例えば、「私はAをやりたい」と主張したいとき、理由を聞かれて、「やりたいから」では話にならないですよね。
今何が問題になっているのか、それを解決するとどんなリターン・結果を得られるのか、こう進めれば上手くいくはずといった計画・体制まで考えてる、
そういった論理構成がある話の方が説得力がありますよね。

こうした3要素が大事とアリストテレスは考えていたようです。

デール・カーネギー

「人を動かす」と聞いて、このタイトルの有名な書籍があることにお気づきの方も多いはず。
そう、デール・カーネギーさんの『人を動かす』です。

現在に至るまで世界中で読み継がれているまさに不朽の名作ですが、この中でカーネギーさんは以下の3つの原則があると述べています。

  • 盗人にも五分の理を認める(相手を批判も非難もせず、苦情も言わない)
  • 重要感を持たせる(率直で、誠実な評価を与える)
  • 人の立場に身を置く(強い欲求を起こさせる)

「何かミスがあっても非難しない」、
「人間は例外なく他人から評価を受けたいと強く望んでいる」、
「その人の好むものを問題にし、それを手に入れる方法を教えてやれ」。

こうしたことを日常の中で実践しなさいと、説いているんですね。
特に1つ目の原則ができている人は非常に少ないのではないでしょうか。

振り返ってみてください。
部下がミスをした時、強い口調になりませんでしたか?
部下が手柄を立てた時、みんなの前で褒めたりしましたか?

日常のそんな一コマが、次の一コマに強い影響を与えているのかもしれません。

人を動かすことはみんなの悩み

このように、古くはアリストテレスの時代から一つの答えがあったわけですが、現代でもその悩みは続いているようです。

このパートでは、現代の大きな悩みとして、仕事面での悩みという角度から実態をご紹介します。

管理職の悩み、ダントツ1位は「部下の育成」

人材育成サービスを提供する株式会社ラーニングエージェンシーは、2019年12月~2020年3月の期間、管理職1,070人を対象に実施した「管理職の意識調査」を行いました。

管理職としてどのような悩みを持っているか、 という質問をしたところ、以下の結果が出ました。

最も多かったのは「部下の育成」で50.5%。半数以上の管理職が部下の育成に悩んでいることがわかりました。5年前の調査でも今回と同様、1位は「部下の育成」という結果が出ており、部下の育成は時代を問わず、一番の課題であることが明らかになりました。

ただし、その回答割合を見てみると、5年前に「部下の育成」と答えた管理職は約40%。今回の調査では10%も増加していることから、部下の成長に手応えを感じずに育成に不安を抱えている・・・、そんな管理職が増えているという可能性もありそうです。

株式会社ラーニングエージェンシー,「管理職の意識調査」,2019 (https://www.learningagency.co.jp/column_report/research/research_58_200727.html)

半数以上の管理職が部下の育成に悩んでるんですね!
しかも、5年前から続いている上に、もっというと増えているという事実....

この調査では、具体的に育成の何に悩んでいるのかの調査は行われていないようですが、どんな指導・伝え方をすれば仕事ができるようになるのか、良いマインドセットを持ってもらえるのか、といったことに悩んでいるのではないでしょうか。

先人たちの教えが古くからあるにも関わらず、いまだに人類は同じテーマで悩んでいるんですね(笑)

人の心を動かす要素

さて、それでは本題に入ります。

人類の長年の悩みである「人の心を動かす」方法について、ターリ・シャーロットさんの長年の研究によって判明した、必要な「7つの要素」は以下です。

人の心を動かす7つの要素

  1. 事前の信念
  2. 感情
  3. インセンティブ
  4. 主体性
  5. 好奇心
  6. 心の状態
  7. 他人

本記事では、事前の信念から主体性までの4つをご紹介します。
残りはぜひ書籍を読んでみてください!

事前の信念

このパートの重要なエッセンスは以下です。

  • 人間は情報に対して公平な判断をするように作られていない。データは話を進める上で重要な情報だが、行動を促す/変える力はほぼ皆無である
  • 人間はいったん決断したり意志を固めたりすると、違う考え方を取り入れることは難しい
  • 人を説得するためには、相手の間違いを指摘/証明するのではなく、共通点に基づいて話をする必要がある

私はこのパートの時点で驚愕しました(笑)

あなたも経験があるのではないでしょうか。

例えば、友人やパートナーと旅行先を決める時。

友人は「北海道に行きたい」と言いますが、自分は、冬の今こそ程々の気温の「沖縄に行きたい」と考えており、それぞれでそれぞれの良いところを列挙しまくる時間(笑)

結局は、飛行機やホテルをとれるギリギリのタイミングでどちらかが折れるんですよね...
そして意見を通した方は「よっしゃ!」と喜び勇むわけです。

今思えば、これはそこに行くメリットに納得して意見を変えたのではなく、納得はしてないけど決めなきゃいけないタイミングだからとりあえず意見を変えて話を進めることにした、が正しい相手の心情の変化だったということです。

もちろんこうしたことは研究でも明らかにしてます。

例えば、チャールズ・ロードら3人の科学者は、アメリカの大学から「死刑を強く支持する学生」と「死刑に強く反対する学生」計48人を選んで実験を行いました。

彼ら全員に2つのデータを提示し、それらを勘案した際に自分の意見を変えるかどうかということを観察するという内容です。
一つ目のデータは、極刑の有効性に関する証拠、もう一つは効果のなさに関する証拠を示した研究結果です。

それらを彼らに見せた後、自身の考えを変えたのかどうかに関する結果はどうだったかというと以下だったようです。

死刑を強く支持していた学生は、有効性が立証された資料をよくできた実証研究と評価する反面、もう一方を不用意で説得力のない研究だと主張した。そして、もともと死刑に反対していた学生はまったく逆の評価をした。
最終的に、死刑支持者は極刑へのさらなる熱意を抱いて研究室を後にし、死刑反対論者はそれまでより熱い想いで死刑に反対するようになった。
この実験によって、物事の両面を見られるようになったどころか、意見の両極化が進んでしまったのだ。

ターリ・シャーロット,『事実はなぜ人の意見を変えられないのか 説得力と影響力の科学』,2019

これは他の研究でも同様の結果が得られているようです。
興味深いですよね。
つまり、以下のことが言えるということです。

新しいデータを提供すると、相手は自分の先入観(「事前の信念」と呼ばれる)を裏付ける証拠なら即座に受け入れ、反対の証拠は冷ややかな目で評価する。

ターリ・シャーロット,『事実はなぜ人の意見を変えられないのか 説得力と影響力の科学』,2019

こうした、自分の意見を裏付けるデータばかり求めてしまう傾向は、「確証バイアス」と呼ばれています。
データを客観的に判断することは難しいのですね...

しかし、賢い人なら確証バイアスを乗り越えてきちんと判断するのでは?と思った方もいると思います。
その研究結果も書籍に記載されていますのでぜひ読んでみてください。

このように、事前の信念の前では、データが役に立つことは多くはないようです。
では、どうすれば相手の意見を変えることができるのでしょうか。

その答えが、共通の動機を見つけてその切り口から話す、相手の気持ちを考慮するということです。

次のパートでは、その気持ち/感情に働きかけることについてみていきましょう!

感情

このパートの重要なエッセンスは以下です。

  • 影響を与える最も強力な方法の一つが、感情を用いること
  • 聞き手の心を動かすポイントは、脳波の歩調が合う「カップリング」を起こすこと
  • 感情は伝染しやすい。きちんと感情をコントロールしよう

前パートでは、確証バイアスがある中でデータだけで人を動かすのは難しいという話をしました。

とはいえ人の心は動かしたいですよね。
そこで感情を用いることがキーになってくるわけですが、どうやるのかという話を最初にしたいと思います。

その方法こそが「カップリング」になります。

プリンストン大学の研究グループは、人々に政治家の演説を聞かせ、その間の脳活動をMRI(核磁気共鳴画像法)スキャナーで記録する実験を行いました。
この実験で分かったのが以下でした。

この実験でわかったのは、力強い演説を聞いているとき、複数の聞き手の脳が「歩調を合わせる」ことだった。脳波は似通ったタイミングで上下し、まるで同期したかのように、脳の同じ領域が同じように活性化したり、沈静化したりしたのだ。
(中略)
同期が認められたのは、言語と聴覚に深く関わる脳の領域だけではない。それは物事の関連付け、感情の生成や処理、そして他人への共感や同情に不可欠な領域でも認められた。

ターリ・シャーロット,『事実はなぜ人の意見を変えられないのか 説得力と影響力の科学』,2019

また、同大学の学生を対象に、他人の話を聞いている際の脳活動を同じくMRIで記録する実験結果もあります。

内容は、ある若い女性(仮にアナベル)が高校時代のプロムの思い出を語っている音声を聞かせ、その際の脳活動を記録するというものです。

実験に参加していた男子学生の一人を、仮にロナルドと呼ぼう。ロナルドのニューロン発火パターンを見ると、話を聞く彼の脳活動は、アナベルの脳活動にすぐさま同期したことがわかった。
(中略)
しかし興味深いのはここからだ。しばらくすると、ロナルドの脳活動パターンがアナベルに先行し始める。聞き手の脳は、話し手が言おうとすることを予測して、今や話し手の脳を先導していた。ロナルドの脳は、次の展開を予期し、それによってアナベルの話をより深く理解しているようだった。

ターリ・シャーロット,『事実はなぜ人の意見を変えられないのか 説得力と影響力の科学』,2019

名演説、名スピーチと呼ばれるようなものは、そのとき自分はどう感じたのかといった感情などを伝えることで、おそらくこの脳波の同調、「カップリング」が起き、聞き手が勝手に先を想像し、より深く理解してもらえる状態にしているのではと思います。

おもしろいですよね。

感情をどう伝えるかによって、人の行動もやはり変わるようです。
それを示すのが、以下研究。

心理学者のウェンディ・メンデスらによってサンフランシスコで行われた研究では、母親と1歳の赤ちゃん69組を対象に、母親にストレスを与え、その後の赤ちゃんの反応を観察しました。
その結果が以下。

ストレスを生けた母親と再会したロニの1分間の心拍数は六拍増加し、リラックスした母親と再会したサラの心拍数は四拍減少した(ロニとサラはこの実験の象徴的存在であり、ここに挙げた値は参加した赤ちゃんの反応を平均したものである)。
子供は母親の感情を意識的に汲み取ったわけではないが、その体内には同じ感情が湧き起こったようだ。彼らの生理状態は一番身近な人に同調したのだ。
(中略)
実は、再会によって変化したのは生理的状態だけではない。行動にも影響が及ぶ。母親が帰ってきたあと、サラは他の研究員たちとも楽しげに触れ合ったが(ストレスのない状態を経験した他の母親の子供も同様)、ロニは他人を避け視線があわないようにした(ストレス状態を経験した他の母親の子供も同様)。

ターリ・シャーロット,『事実はなぜ人の意見を変えられないのか 説得力と影響力の科学』,2019

以下の研究も同様の結果が得られているようです。
ある研究では、学生のグループに協力して課題をこなすよう求めました。実験者側は学生たちに知られないよう、それぞれのグループに演劇科の生徒を紛れ込ませ、上機嫌もしくは不機嫌に振る舞うよう指示し、各グループの雰囲気や結果がどうなるのかを観察した、という内容です。

予想に違わず、演劇科の生徒の機嫌は周囲の雰囲気を一変させた。だがそれだけではない。雰囲気のみならず、行動にも影響が現れたのだ。
上機嫌な生徒を紛れ込ませたグループでは、協力し合うことは多いが衝突は少なく、優れたパフォーマンスを見せた。不機嫌な生徒を投入したグループは、課題の出来もずっと悪かった。
自分が何かしらの気持ちを抱いただけで、人々の感情を変えられるという事実を、心にとめておくべきだろう。

ターリ・シャーロット,『事実はなぜ人の意見を変えられないのか 説得力と影響力の科学』,2019

例えば、普段のミーティングの場であったり、部下がミスをしたとき、あなたが示すべき感情や考えについてはよく考えなければいけませんね。

インセンティブ

このパートの重要なエッセンスは以下です。

  • 人に何かをしてほしい時に思い出してほしいのは「ゴー反応
  • 反対に、人に行動させたくない場合は「ノー・ゴー反応

前パートでは、感情は相手の考えを変えうるが、表現する感情によって、相手が抱く感情も、さらには行動も違ってくるという話という話をしました。

では、どんな時にどの感情を伝えれば良いのか、というのが本パートです。

報酬を予測すると、人間の脳は接近を促すのみならず、行動を起こしやすくなるよう設計されている。反対に、喪失への不安は、何もしない状態を引き起こすことが多い。
(中略)
人間は生物学的にも、良いことを期待すると行動を起こしやすくなるように作られているのだ。

ターリ・シャーロット,『事実はなぜ人の意見を変えられないのか 説得力と影響力の科学』,2019

この内容を示す一つの証明になったのが、2008年にニューヨーク州の研究チームによって行われた実験です。
彼らは病院内での手洗い率を大幅に上昇させるべく、2年の歳月と5万ドルの予算を投じるほどの大掛かりな調査を行いました。

この実験の対象となったある集中治療室(ICU)には、元々簡便なジェル状の手指消毒剤や洗面台が部屋ごとに備えつけられており、医療スタッフが手洗いを忘れないよう、至る所に注意書きが貼られていたそうです。それでも、遵守率は非常に低かった現実がありました。

そこで、研究チームは、スタッフが自分たちの行動をすぐにフィードバックできるよう、各部屋に電光掲示板を設置しました。
その結果が以下。

医師や看護師などの職員がきちんと手を洗うたびに、掲示板に示される数値も上がっていく。これらの数値はスタッフの手洗い遵守率を表すもので、その時間に働いているスタッフの何%が手を洗っているか、1週間ではどれくらいの率になるかなどが示される。そこで何が起こったか?なんと、遵守率が90%近くまで上昇したのだ!

ターリ・シャーロット,『事実はなぜ人の意見を変えられないのか 説得力と影響力の科学』,2019

これはこのICUに限った話ではなく、別の治療室でも再現するのか行ったところ、同様の結果が得られたということです。

興味深いですよね。
行ったことは、金銭的報酬を用意するでもなく、逆に減給といった罰を用意するものではなく、肯定的なフィードバックを行っただけです。

これは脳の信号の伝え方に起因するもののようです。

何か素敵なものが得られそうな可能性に直面したとき、私たちの脳は一連の生物学的現象を引き起こし、それによって素早い行動が促進される。これは脳の「ゴー反応」と呼ばれ、脳深部の中脳から送られたゴー信号が、脳のほぼ中央にある線条体へと伝わり、最終的には行動反応をコントロールする前頭葉の領域へと到達する。
一方、何か悪いことを予測した時、私たちは直感的にあとずさりする。脳が「ノー・ゴー反応」を引き起こすからだ。ノー・ゴー信号も、中脳の深部から線条体へと伝わり、前頭葉へ送られる。ゴー信号と違うのは、ノー・ゴー信号が反応を抑止する点である。その結果、人は悪いことよりも良いことを予測した時の方が、行動を起こす可能性が高くなるというわけだ。

ターリ・シャーロット,『事実はなぜ人の意見を変えられないのか 説得力と影響力の科学』,2019

ゴー反応は「行動まで行われる」が、ノー・ゴー反応は「行動は抑止され行われない」、ということです。

そう考えると、私たちは、普段のコミュニケーションを間違えているのかもしれません。

例えば、勉強しない子どもに勉強してほしい時。
私たちの多くは、ただ「勉強しなさい!」とか「そんなんじゃ良い仕事に就けないよ」と言うでしょう。

しかし、ネガティブな感情が相手をどう変えるのか、相手に何かしてほしい時に脳内で起こる反応はどんな反応なのか、それを知っていればこのコミュニケーションが間違っているかもしれないことに気づくことができますよね。

「頑張って勉強すれば、好きな職に就くことができる」とか「今度のテストで良い点を取ったら何か買ってあげる」と声をかければ、勉強してくれるかもしれませんよね。

この仕組みは覚えておきたいですね。

主体性

さて、最後にご紹介するのは主体性についてです。

他人に影響を与えるためには、コントロールしたいという衝動を押さえ込み、相手が主体性を必要としているのを理解することだ。人は自分の主体性が失われると思ったら抵抗するし、主体性が強まると考えたら、その経験を受け入れ報酬とみなすものだからだ。

ターリ・シャーロット,『事実はなぜ人の意見を変えられないのか 説得力と影響力の科学』,2019

人に何かを依頼するとき、タスクをお願いしてませんか?
「〇〇をしたいので、△△までに✖️✖️をやってください。やり方は□□にすべて記載してます」といった具合に。

もちろん、やることを全てきちんと教えてほしいというタイプの部下であれば良いかもしれませんが、仕事に熱意があるような優秀な部下だと逆効果です。

あえて期限ややることを伝えずに実現したい状態だけを相談し、細かい情報は部下に聞いてこさせる、なんていう手も良いかもしれません。
(確認してこなかったら指導が必要になる展開ですが...)

この「影響を与えるため」に「主体感を与える」ことを実験したのが以下です。

アメリカ人を対象に、連邦税制の使われ方に関するオンライン調査が行われました。
今回の参加者の一部には、連邦税の使われ方に関する最新情報を読む機会が与えられ、さらにそのなかの一部には、自分の払った税金をどのように使ってほしいか(教育には何%、など)意見を求めるという内容です。
最後には、参加者全員に、もしも怪しげな税制の抜け穴があったとして、それを使えば税金が一割減るとしたら、抜け穴を利用するかどうか質問します。

その結果が以下。

税金の使い道について希望を述べる機会が与えられなかった群では、3人に2人(約66%)が法の抜け穴を利用したいと答えた。対して、発言の機会が与えられた群でそう答えたのは半分以下(44%)だった。この研究から、税金の使い方について情報を与えるだけでは不十分だということが明らかになった。変化をもたらすには、主体感を与えることが大切なのだ。

ターリ・シャーロット,『事実はなぜ人の意見を変えられないのか 説得力と影響力の科学』,2019

実験の参加者は、実際に税金の使い道をコントロールする権利を与えられたわけではなく、ただ何に使ってほしいのか聞かれただけです。
それにも関わらず、意欲が高まり変化したのです。

なぜ人間はコントロールすることを求めるのか、それについて研究したのが、ラトガーズ大学の神経学者マウリチオ・デルガード率いる研究チームです。

選択の機会が与えられることがわかると人は喜びを感じ、脳の報酬系である腹側線条体が活性化する。人間は選択それ自体を報酬と捉え、選択肢を与えられたら「選ぶこと」を選ぶのだ。

ターリ・シャーロット,『事実はなぜ人の意見を変えられないのか 説得力と影響力の科学』,2019

株をやっている人なら聞いたことがあるかもしれませんが、自分で銘柄を選んで取引をする投資家は損をする可能性が高いんですよね。
利益を得るために行なっているはず(多くの場合)の株で、有名な上記の定説があるにも関わらず、それでも自分で銘柄選びをする人が多いのはここに原因があるかもしれません。

さて、最後に主体性を持たせることでその人の人生に影響を与えられるのかを観察した研究を紹介します。

イェール大学のジュディス・ロディンとハーバード大学のエレン・ランガーは、介護施設の入居者を対象に、強い主体性を持たせたらより健康になるのか、幸せを感じてもらえるのかに関する実験を行いました。

無作為に「主体性フロア」と「非主体性フロア」を選び、各フロアの入居者に対してそれぞれ異なる説明を行い、3週間後に入居者の状態はどう変化するのかという内容です。
主体性フロアの入居者に対しては、「自分のことはすべて自分で責任をもちましょう。必要なものが全部揃っているのかも空いた時間をどう過ごすのかも自分で決めましょう、部屋にある鉢植えの植物も自分で世話をしましょう」という内容で、非主体性フロアの入居者に対しては、「全部私たちがやるから何もする必要はないです。鉢植えの植物もスタッフが水やりをします」という内容です。

現実には両グループに大きな違いはなく、非主体性フロアの入居者はいつでも自分が望めば鉢植えの植物に水をやることができたしなんでも自分で決断をすることはできる環境だったようです。

その結果が以下。

三週間後、ロディンとランガーが入居者の状態を評価したところ、身の回りの管理を推奨されたグループは最も幸福を感じ、たくさんの活動に参加するようになっていた。頭脳も明晰になり、一年半後には「非主体性フロア」の住人より健康になっていた。

ターリ・シャーロット,『事実はなぜ人の意見を変えられないのか 説得力と影響力の科学』,2019

このように、非常にシンプルな介入であったにも関わらず、主体性を持たせることは人の幸福度に良い影響を与える可能性を示したのです。

人に何か動いてほしい時、つい私たちは細かく指示したり命令するようにしてしまいがちです。
しかし、それでうまくいかないから悩むんですよね(笑)

私たちがすべきは、主体性を高めてあげ、選択肢を用意してあげることなのかもしれません。

人の心を動かす具体的なコミュニケーション例

さて、人の心を動かす7つの要素のうち4つについてみてきましたがいかがだったでしょうか。

残りの3つについては書ききれないので書籍をとりあえず読んでみてください。
いろんな研究結果が書いてあっておもしろかったです!

とりあえず買ってみる

本パートでは、具体的にどんなコミュニケーションに変えるべきなのか、パターン別に考えてみたいと思います。

パートナー

パートナーと喧嘩すること、ありますよね...

お互い言いたいことを言うだけ言って結論は出ないなんていう経験もあるのではないでしょうか。

もちろん、喧嘩のテーマ(?)やお互いの諸々の状態によって話は違ってきますが、例えば、子どもの教育方針として受験をさせるかで、妻は反対、夫は賛成だった場合、夫側(妻含め)は以下のようなスタンスが良いかもしれません。

なぜ優秀な子どもが揃う環境に身を置かせないのかが分からない。公立でダラダラ無駄な時間を過ごさせるのは〇〇のためにならないでしょ。

公立の方が家から近いし安心ってのはあるよね。お互いのメリットデメリットまとめつつ、〇〇がどうしたいかも一緒に話を聞いてみない?

まず、事前の信念があるため、データでの説得は難しいですよね(笑)

なので、まずは相手の考えに同意を示し、安心するという感情を伝えるのは大事かなと思います。
その上で、選択肢を提示し相手に選んでもらう前向きなコミュニケーション例でした(もちろんうまくいくかどうかは前提によります)。

職場

例えば、あなたが上司で、部下のミスが連続している場合。

なんでいつも同じミスするの?期限もギリギリだし。分からないことがあるなら言ってくれないとこっちも分からないし社会人なんだから自分で考えて動いて。

ミスが連続してるの〇〇さんらしくないけどどうかした?ちなみに今回のミスの原因は何だと〇〇さんは考えてる?これを機会に振り返ってみようよ。

何度もミスをするのはきっと何かがおかしいはずなんですよね。

その原因を見つければ良いのに、怒りを表現してしまうと部下は萎縮し原因探しに動けなくなってしまうかもしれません。

〜らしくない、と期待を表現し安心感を醸成しつつ、原因探しは一旦自分で考えてもらうという主体性も持たせ、ゴー反応のコミュニケーションをとるっていうイメージです。

まとめ

さて、いかがだったでしょうか。
人の心を動かす方法は、ポイントを押さえればできる!というお話をしてきました。

本記事では、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの教授であるターリ・シャーロットの著書、「事実はなぜ人の意見を変えられないのか 説得力と影響力の科学」の内容が有効であると考え、自分の回答を交えながらご紹介しました。

今回ご紹介したのはほんの一部に過ぎません。
書籍を読むと、今回紹介できなかった他の要素の内容はもちろん、なぜこの内容なのかといった実験結果が記載されているので腹落ちもしますし、具体的なエピソードもあるので使い方も学ぶことができます。

今日が一番若い日です。
この本を手にとり、残りの人生をさらに有意義にしていきましょう!

この記事のポイント

人間は情報に対して公平な判断をするように作られていない。

相手の気持ちを変えられるのは、7つの要素と一致した時。

その7つの要素とは、「事前の信念」「感情」「インセンティブ」「主体性」「好奇心」「心の状態」「他人」である。

最後までお読みいただきありがとうございました!

詳細はこちらの本を読むことでよく理解できますのでぜひ購入してみてください〜!

とりあえず買ってみる

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